どの様な企業が譲渡を希望するのでしょうか?

後継者不在は深刻な問題!!

数年前に私どものグループに問い合わせのあった事例の紹介をします。

中部地区の人口8千人ほどの町にある金属加工業の社長からの問い合わせです。創業者である社長は72歳。地方の名士で業種組合の理事長をされたり、熱心なロータリアンでロータリークラブの役員をされたりしている方です。会社の概要は表1の通りです。

お正月に息子が実家に帰って来たので、「自分はいよいよ体が弱くなり足腰も辛くなってきたので会社を継いで欲しい」という話しを持ち出しました。
もともと、その社長は息子を東京へ修行に出している、と考えていました。

ところが、息子の方は、慶応大学を卒業し、いまでは東京のテレビ局のプロデューサーをしていて、大学に進学した時からマスコミでの仕事をライフワークと考え、実家の事業を継ぐという事は考えてなかった様です。
にもかかわらず、急に父親から家業を継いでほしいという要望が出されたので、驚いて即座に断ったのだそうです。

男同士というのは、この様に結構大きなコミュニケーションギャップがあるもので、この時もお正月に将来の社長候補について話し合って初めてそのギャップに気付き、改めてお互いに驚いた訳です。
その後、話し合いが進まずに3月になって社長の方が思い余って私どもの会社に問い合わせてきた訳です。最初の問い合わせは私が受けました。
それは「ぜひ会社へ来て欲しい。悩み抜いて電話をした。おりいって相談したい事がある」という内容でした。
お伺いしてみると前記の様に息子に後を継いでもらう話しが決裂しているので、申し訳ないが東京に行って息子を説得して来て欲しい、という依頼でした。
 

後継者不在は申告な問題!! 表1
 業  種  金属加工業
 場  所  中部地方
 社  長  創業者72歳。地方の名士
 社  員  42名
 息  子  慶応大学卒。東京のテレビ局 プロデューサー
 相談内容  高齢になり、最近病気がちであり、又、足腰も辛くなって
 きた。
 地方都市だし、社員の今後の生活と自分の今までの実
 績両面から考えてスムーズに息子に譲りたい。
 ところが息子は会社を継いでくれない。
 どうか息子を連れ戻して来てください。


私どもの専門とは少し依頼内容が違ったのですが、私も仕事で週1〜2回は上京しているので、「それではお話しだけでもして参りましょう」と東京でその息子に会ってきました。
話しをしていく中で、息子は会社を継がない理由を非常に明確に3つあげました。


理由その1

もちろん、この息子は経営者になった経験は無く、したがって経営者という仕事の面白さはまだ知りません しかし、マスコミの中でドキュメンタリー制作という仕事に関して並々ならぬ情熱と見識を持っていて、仕事そのものを生活の一部として非常に楽しんでいます。

したがって「実家に帰って金属加工業の仕事を手伝う気持ちは全く無く、自分は一生掛けてこの仕事をやり遂げたいと考えています」と自分の仕事に対して明確なビジョンと考えを持っていました。


理由その1   
 
昔、昭和30年代の初期などは自営業の家庭とサラリーマンの家庭では大きな差がありました。もちろん仕事で使用するための物ですが、まだサラリーマンの家庭にはほとんど無かった電話や車、テレビ、冷蔵庫等が自営業の家庭にはありました。
自転車ですらサラリーマンの家庭では手に入りにくかった時代です。
しかし、現在ではどうでしょうか?

一般的に言って、中小企業の社長は創業者で、元々バイタリティーに溢れ、頭脳も明晰、人間関係も巧みな方が多い様です。
そのため息子も親の血を引いて、結構出来る方が多いのも事実です。その息子たちが大学で教育を受け、優良大手企業に入ってそこそこのエリートコースを歩いている訳です。
この方々と中小企業の経営者の方々とでは経済的な生活の差がどれほどあるでしょうか?非常に少ないのが現実と言えます。

むしろ経営者の方々は自分の家や土地を担保に差し入れて連帯保証を負い、また不渡手形による連鎖倒産といったリスクを背負って経営されているケースが多いのではないでしょうか。

一方、優秀なサラリーマンの場合は動かしているお金は非常に大きくて、仕事がダイナミックでおもしろいにもかかわらず、その様な直接的なリスクは一切ありません。
なおかつ、低家賃の社宅や福利厚生面まで考慮すれば収入面でそれほど差がある訳ではありません。
つまり、この息子の2つ目の理由は、経済的な事は実家に帰るトリガー(引き金)にはならないという事です。


理由その1        

小さい頃から父親の経営者としての苦労を見て来たそうです。
景気が悪い時には毎日遅くまで得意先回りをし、信用金庫の若い担当者に頭を下げて融資をお願いする姿を見ました。
反対に景気の良い時には仕事をこなすために若い工員に夕食の気づかいをして毎晩遅くまで機嫌を取りながら働いてもらっている姿を目にしてきました。
この様な経営者としの器やリーダーシップが自分にはないと言っていました。

自分は専門職としての能力は高いが、もし経営者になったら現在の40数名の会社を15名前後に縮小し、安定経営を図るしかないと考えているようです。

この事例は、私どものグループに相談に来られる譲渡希望企業の代表的なものです。現在、私どもの会社の企業譲渡の相談に来られる企業の実に70%が後継者不在によるものです。

図1の様に世代交代期を迎えている中小企業の56.0%が後継者が決定していないのです。


(中小企業白書2006年版)