M&Aによる解散と譲渡の比較

        
 まず、解散する場合です。図3を見て下さい。
この会社の時価総資産は25億円、負債が6.8億円、したがって時価純資産が18.2億円の非常に優秀な会社です。創業者の方が20〜30年かかって築き上げた純財産が18.2億円あるという事になります。この会社は含み益のある土地を所有していたので清算算した場合には、概算ですがまず清算所得に関して、法人税、事業税、住民税が約7.6億円かかる計算になりました。そこで、残った9億円をオーナー株主の方に配当する事になります。すると、さらに配当されたオーナー株主の方は所得税、住民税を個人的に5.2億円支払う事になります。そうすると株主の最終手取額は5.4億円となってしまいます。

 続いて、M&Aによる株式譲渡の場合を考えてみたいと思います。
図4をご覧下さい。同様に株式売却代金を時価純資産額の18.2億円と仮定すると、M&Aによる株式譲渡の場合はキャピタルゲイン課税20%の税金だけで済みます。したがって、18.2億円で株式を売却した後、3.6億円の税金を支払って株主の手取額は14.6億円となります。これは解散と比べると、約2.7倍以上の差があるということにお気づきになると思います。

 しかし、これはM&Aのテキストに載っている事例であって、私ども実務家から見ると実はもっと大きな差が生じるのが普通です。即ち、精算する時には資産のうちで現金化出来ないものが非常に多くあります。例えば、工場用地を売却して借入金を返済しようという場合に工場用地をまず不動産屋に売却依頼します。すると、解散するための売却という事がすぐに業界に知れ渡ってしまいます。そうすると土地に関しては2割から3割の値引きが発生する可能性が多いにあります。さらに工場用地の上に立っている建物などは更地渡しにして欲しいという不動産の買手の要望に従うと、簿価で数千万円の計上がされていたとしてもそれが0円評価になるばかりでなく、撤去費用が1,000〜2,000万円かかる可能性も出てきます。又、機械設備や仕掛品、材料等もほとんど半値八掛けになるか、あるいはスクラップ処理代が発生してマイナス要因になる可能性もあります。この様に貸借対照表の資産の部にあげているものはなかなか時価や簿価通りには売れないものがありますし、場合によっては0円あるいはマイナスになるという事が考えられますので、そういったものを差し引くと資産の部が非常に少なくなってしまいます。
 
 にもかかわらず、負債の部に計上されている借入金や買掛金、支払手形等は
1円も減少する事はありません。したがって、解散したらかなりの財産が残ると考えられている会社でも、実際にある時点で会社をたたんで精算すると、場合によってはオーナー社長に借金だけが残るという結果にもなりかねません。それだけ会社をたたむというのは非常に大変な事である、とご記憶願いたいと思います。

 それと比べて、M&Aによる株式譲渡の場合は、この時価純資産に加えて営業権が加えられる事があります。いわゆる「のれん代」です。そうすると、さらに手取額の差が大きくなります。私ども実務家の経験では精算とM&Aでは株主の手取額は数倍以上の差があるのではないか、というイメージを持っています。


  M&Aによる譲渡と解散の比較

解散の場合
                                               図 3
                 解散と株式売買との手取額の比較図   (単位:百万円)
 
資産 負債



資本金 20
精算
所得
法人税
事業税
住民税
  756
所得税
住民税
  520
544
                         
  
  時価総資産                           25 億

  負 債                               6.8億
  時価純資産                           18.2億

  株主の手取額    5.4億円

株式譲渡の場合
                                           図 4
                                          (単位:百万円)
資 産 負 債





資本金 (取得価額) 20





所得税
住民税
468
1,440


  時価総資産                           25 億                        
  負 債                               6.8億
  時価純資産                           18.2億

 株主の手取額    14.6億円

解散と比べ約2.7倍